2007-09-10

「医療費増大という悪夢が社会主義の復活を招く?」

「医療費増大という悪夢が社会主義の復活を招く?」ハーバード大学教授 ケネス・ロゴフ
東洋経済ON LINE(2007/09/10)
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世界各国で急速に膨れ上がる医療費の問題は、資本主義に対して大きな課題を突き付けることになるのだろうか。私は、そう遠くない将来、資本主義に対する道徳的、社会的、政治的な支持が厳しい試練にさらされると思っている。なぜなら、際限なく増大する医療費を前にして、現在のような“平等な医療制度”を維持することが難しくなるからだ。
(中略)
今後、高齢者の医療費が財政支出の伸びの大半を占めるようになる可能性は高い。だが、米議会予算局などの歳出見通しを詳細に検討すると、アメリカ社会の高齢化は問題の一部でしかなく、大きな問題ではないことがわかる。本当の問題は、「社会が高齢者に対して、最新の医療技術をどれだけ平等に提供する気があるのか」という点にある。
現在の状況をさらに悪化させうるもう一つの変化は、個人向け医療の重要性が高まっていることだ。
(中略)
 原則的に言えば、治療分野にもっと市場メカニズムを導入すれば、医療費の増大を一時的に抑制したり、逆転させたりすることができるかもしれない。しかし、そうした効率性の向上による医療費の抑制には、おのずと限界がある。過去の例からわかるように、豊かになれば食費が減るのとは逆に、豊かになれば医療費はもっと増えていくのである。
医療支出の増大によって医療のイノベーションは加速するだろう。ただ、イノベーションは長期的には医療の状況を改善するはずだが、短期的には医療の不公平と摩擦をさらに激化させることになるだろう。
私は“医療資本主義”に反対しているわけではない。ただ、このままでは医療保険制度が脆弱化する可能性があると警告しているのである。大半の国は医療制度の運用に際して命令と管理に依存しすぎており、患者と医療提供者が効率的な選択をするためのインセンティブを与えてこなかった。医療費増大の圧力は、自由市場的な資本主義に向かって進んでいる現在の流れを逆転させ、経済の非常に重要な部分を社会主義的なシステムに復帰させることになるかもしれない。「患者を死なせるぐらいなら、医療費負担で国家財政が赤字になるほうがよい」。そう判断する国もきっと出てくるはずだ。

ケネス・ロゴフ
1953年生まれ。80年マサチューセッツ工科大学で経済学博士号を取得。99年よりハーバード大学経済学部教授。国際金融分野の権威。2001年~03年までIMFの経済担当顧問兼調査局長を務めた。チェスの天才としても名をはせる。

マクロから見た医療経済ですが,高齢化先進国である日本医療の方向は“医療資本主義”それとも“医療社会主義”か?

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