2007-12-07

座位の夢想: 識者の声  (寺野 彰氏、道標主人氏)

座位の夢想: 識者の声  (寺野 彰氏、道標主人氏)

診療行為に関連した死亡の死因究明等の在り方に関する試案
一第二次試案-に対するコメント
http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?ANKEN_TYPE=3&CLASSNAME=Pcm1090&KID=495070148&OBJCD=100495&GROUP
から

学校法人獨協学園理事長
獨協医科大学学長
獨協医科大学病院病院長
獨協大学法科大学院教授
弁護士
寺野 彰

 今年10月17日付で厚生労働省から公表された『診療行為に関連した死亡の死因究明等の在 り方に関する第二次試案』に対して私立医科大学協会法務委員会(時間がないため本委員会の検討のみ)としてのコメントを提出する。本試案は、医師法第21 条に基づく異状死の届出に関連した医療現場での混乱を回避するために検討されたもので、その方向性自体は「日本医学会加盟19学会の共同声明(平成16年 9月30日)」に基づくものである。新しい制度に基づく届出と医師法第21条に基づく届出のあり方を整理するとしている点、調査手順を明瞭に述べている点 等は評価される。しかし、この第二次試案には多くの問題点があり、その点を以下に記述すると共に、本試案が法案として次期通常国会に提出 されることには、現在の我が国の医療危機と今後の医療体制に対する影響の大きさを考慮すると、さらに時間をかけた慎重な検討が必要であり、本協会として強 い危惧を覚えるものである。以下問題点を列記する

l)まず本年3月からの検討とはいえ、これほどの重大な法案作成手順としてあまりに性急すぎると考えられる。航空・鉄道調査委員会の長期にわたる慎重な検討とその膨大な資料に比較して、本試案の内容の希薄さ、検討の不足は一目瞭然である。モデル事業の完成と詳細な解析を待って、その上に立った法案策定が必要である。

2)「診療関連死」の範囲、定義が不鮮明であり、これまでの各学会の検討成果が反映されていない。法案の中核をなすはずの概念が明確でないのは、法的観点からも認めることができない思われる。

3)「医療事故調査委員会」(仮称)が厚生労働省におかれること自体、中立性・公正性の観点から問題となる。さらに、立ち入り検査など強制力を持った調査権限が与ええられるとなると、これ自体刑事捜査に類似するものであり、医療者などの黙秘権など憲法で保障される基本的人権が侵されることになる。この点は、法的観点からさらなる検討が必要である。

4)特に、刑事手続きに関し、委員会の調査報告書は、刑事手続きで使用されることもあり得る点、必要な場合には警察に通報する点、医師法第21条との関連、捜査機関の権限との関連など、法的にもきわめて重要な問題点が未検討のまま提示されている。

5)このままでは、「医療事故の再発防止」効果は期待できず、「責任追及」のみとなり、隠蔽体質を助長する結果となる。原因究明の目的とはほど遠いものとなることを危惧する。

6)解剖などが死因究明に必要なことは当然であるが、おそらく膨大な数に上るであろう対象を解剖するだけの法医学者、病理学者は確保できない。特に解剖のできる法医学者が急減している現状を直視すべきである。

7)医師など医療者への「聞き取り調査」も必要であろうが、この結果が刑事手続きに用いられるとすれば、黙秘権は保証されるべきであり、令状も必要と考えられる。さらに本調査が、「捜査の端緒」となる可能性は十分考えられ、捜査当局との慎重な検討が必要である。

8)遺族代表者を委員に加えることは、本調査委員会の科学性を大きく損なうものと考えられる。感情論で調査が進められることは、死因究明にとって決定的な悪影響をもたらす。

9)遺族からの申し出による調査開始にも問題が残り、現在民事訴訟を有利にするための遺族からの刑事訴訟が問題となっている現実を見極めるべきである

10) こ のような内容が法律化された場合、もっとも危惧されることは、現在我が国の医療危機を招いている医師不足、特に産科、小児科、麻酔科、そのほかの外科領域 の医師不足は間違いなく加速されることとなる。医学教育者としても、責任を持ってこれらの専門科を専攻するよう勧めることが困難になる。

11) 以上、パブリックコメントに至る時間がきわめて制限されているため、重要な点のみ列挙したが、まだまだ問題となる点は残されており、本試案の内容を次期通常国会に法案として提出するような暴挙は差し控えられるよう強く希望する。
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本試案に基づいて調査機関を拙速に設立することには反対します。
(道標主人氏 パブリックコメントと同時に http://guideboard.wordpress.com/2007/11/02/ に掲載)
反対する理由

1.社会保険庁が解体されることによって生じる余剰公務員の受け皿のために、今のうちに組織機関を作りたいという貴省内部の意向は、既に知られています。
単なる余剰公務員の受け皿づくりなどには反対です。
必要なものは、まず第一に、膨大な数の調査に必要な多数の解剖医、臨床医というマンパワーです。
年金の処理すらおぼつかない社保庁職員など、医学的真実の究明の場にふさわしくありません。


2.本試案を基に、設立された調査機関に対して全例の報告義務を課すことへ議論が進んでいると伺っております。
貴省では、かねてより医師に対する処分を迅速化するべく議論がなされていたと聞き及んでいます。
しかも本試案で示されますように、調査結果は行政上のみならず、民事訴訟、さらには刑事訴追にも用いられるとのことです。
諸外国の同様の制度では、航空機事故などとともに医療事故でも、医学医療の発展と医療安全の向上、再発防止のための調査では、個人の責任追及がなされないことが必須条件です。
個人の行政上、民事、刑事での責任追及を大前提に掲げる本制度は真実究明の場とはならず、届出も滞り、医療の現場はリスクを遠ざける努力が優先してしまうでしょう。
よって処分を前提とした調査機関の設立には反対です。

3.死亡事例の場合、解剖に基づく詳細な法医学的、病理学的検索が必要ですが、全国の法医学、病理学の医師を総動員しても、全例届出に続く全例解剖にはとてもマンパワーが足りません。
設備も、その他の必要な職員や検査技師も、財源も足りません。しかも調査検討には、一例一例、複数の解剖医と臨床の専門家の数を重ねた合議が必要です。
とてもそれだけの人員と時間とお金をかけられる計画には見えません。
不充分な調査しかなされない場で、真実とはほど遠い調査結果を基に、行政処分、民事提訴、刑事訴追を受けるような事態が危惧されますので、上記の理由とともに、拙速な調査機関の設立につながる本試案の実現には反対です。
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厚労省の第二次試案 http://www.mhlw.go.jp/shingi/2007/11/dl/s1108-8c.pdf
厚労省の「試案」が通れば医療完全崩壊-まとめサイト

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